探査日誌 03297.1 - 謎の探査機 “ヴォイジャー”
大深度地下空間に対し、ローバーでの降下を試みる。何が発見できるかわからないからだ。しかしそこで我々が目にしたのは、本来地底にあるはずのないものだった。
地下第2層までは、別に発見したより移動が簡単な洞窟を利用することにした。最初に発見した洞窟に造成したスロープは勾配が急になってしまったため、大型ローバー(トラック)の操作が難しくなってしまう。
ローバーの操作性は目下の大きな問題で、ステアリングがセンシティブなため、すぐに道を外れたり、横転してしまう。また、ちょっとした障害物で大きくバンプする現象もまだ完全に解消されてはいない。ブレーキがないのも問題で、急停止させるにはモーターを逆回転させるか、その場で車を降りるしかない。
あくまで惑星探査車なのだから、地球の乗用車のような操作性を求めるのは無理だ。とはいえもう少し操作性が良くならないと、使い物にならない。不明物体をひとつふたつ運ぶなら、脚で往復したほうが早いかもしれない。
見てのとおり、第3層大深度地下に到達したローバーも、スロープの付け根でUターンしてパークしようとしたら一瞬でコケてしまった。
ともあれ、本格調査開始である。着底地点となった空間はおおむね大きな泡状で、その連続となっているようだ。南北でそれぞれ別のバブルに接続している。このバブルには酸素やエネルギーの凝縮体のほかは、ほぼ何もなかった。
南側のバブルはより巨大なようで、果てが見えず真っ暗だった。しかし壁沿いにテザーを配置していったところ、空間自体はさほど大きくなく、単に行き止まりの空間だった。光の反射が入らず暗く見えていただけだったようだ。
問題は北側のバブルだ。そちらには浅い層ではあまり見られない資源である石炭や、マッシュルーム型敵性生物の群体が観られたのだが、そのなかに、見慣れない小さな物体があった。
ライトの光を反射するその物体に近づけたところ、死体だった。
2度目の死体との遭遇だ。彼はこんな地底深くで、何をしていたのだろう?
彼のバックパックから、酸素タンク等を回収し、利用させてもらう。
更に、驚くべき発見があった。
なかば地中に埋まったパラボラアンテナ。なぜ地下にこんなものがあるのか?アンテナの根元には人工物型の不明物体が付着しているため、発掘して取り上げる。
アンテナ全体の発掘を進めると、事態はさらに驚愕の方向に進んだ。
これはヴォイジャー1号なのではないか? 20世紀の深宇宙探査機だ。
特徴的な長いトラスのブームこそ見えないが、縦方向に対象につけられたひしゃげたブームの両端には特徴がある。手前の円盤は放射同位体熱電気転換器のように見えるし、奥につけられた円筒は、スぺクトロメーターなどのセンサー群に見える。パラボラアンテナの大きさも、アストロニアの身長の2倍ほどあり、3.7メートルという設計と一致する。
探査機に近づくとなにか囁くような、複雑な信号が聞こえる。正直、ぞっとした。電池が生きているのだろうか? 何と通信しようとしているのだろうか?
しかしなぜ。
なぜ、どんな経緯で、宇宙探査機がこの惑星の地下深くに埋もれることになったのか?
まったく想像がつかない。また、原因を探ることもできない。
何か得体のしれない恐怖を感じる。
残念ながら、この探査機を動かし、地表に上げることは無理だろう。地形変化で動かすことはできそうだが、労力がかかりすぎる。
大きな謎を地底に埋もれさせたまま、我々は再び月面探査に向けて動き出すことになる。